『月と6ペンス』読了。

 

 結局ストリックランドは新しく作った家族に愛され、死ぬ。しかしそれはパリやロンドンではなく、資本主義支配がまだ十分に及んでいないタヒチでだ。この島では前述した「欲望」や「恐怖」が存在しないために、ストリックランドのようなヘンな奴がいっぱいいるのだ。

 

 「私」はタヒチ島で生前のストリックランドを知る人物たち(これらの者も資本主義的な幸福を放棄し、タヒチ島にやってきた者たちだ)の話を聞き、ストリックランドの最期をおぼろげながら掴んでいく。

  パリやロンドンでまったく愛されなかった彼はタヒチ島民に暖かく迎え入れられたこと、現地の女の子と結婚したこと、子供を設けたこと、ハンセン病に罹患するも美を追及しつづけたこと、最期には美の究極の境地に至り最高傑作を残したこと、死後彼の作品は評価されたこと、貧しく名声と無縁ではあったが幸福であったこと、などだ。

 

 ラストは「私」がストリック夫人にこうした経緯を報告するところで幕を閉じる。経済的に成功し高い社会的地位を得た、ストリック夫人とその子どもたちと話しながら、「私」 はストリックランドがタヒチで設けた子どものことを思い浮かべる。彼は貧しく教育も受けていないが、自由に海を飛びまわっているという。

 この両者を比較しながら、「私」はきわめて皮肉なことを思い浮かべて物語は終わる。要約したら全然面白くなかったので書かないが、最後の一段落は笑ってしまった。傑作。