トルストイ戦争と平和』を読んでいる。

 第1部第1篇の山場は、ロシア最大の金持ちであるベズーホフ伯爵が死亡し、その遺産をめぐって①親戚のワシーリー公爵、②娘のエカテリーナ、③私生児のピエール(本作の主人公だ)が醜い争いをするところだ(最終的には主人公ピエールが勝利する)。

 ベズーホフ伯爵の死に際して、周囲の人間がカネの話しかしない様はおもしろい。同じ作者の別作品で『イワン・イリイチの死』という小説があるが、ここでも同じような光景が描かれる。

 これだけだとバルザックと同じだが、本作ではマリア・ボルコンスキーという人物が登場する。彼女は拝金主義に批判的で、バルザック作品にないキャラクターを持っている。

ああ、ジュリーさん、富める者が神の国に入るより、ラクダが針の穴を通る方がたやすいという救世主のおことばは、恐ろしいほど正しいものですわね。あたくしはワシーリー公爵に同情いたしますし、それにもましてピエールさんがお気の毒です。あれほどお若くて、あのような富の重荷を負ったとすれば、どれほどの誘惑にさらされずにすむでしょうか?あたくしがなによりもこの世で望むものは何かとたずねられたら、それは乞食のなかのもっとも貧しい者より貧しくなることでしょう。

 
 おそらくこの後ピエールは破滅していくのだろうが、どうなることやら。