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「深作」に「仁義」というと、真っ先に思いつくのが『仁義なき戦い』だが、これが笠原和夫脚本だったのに対して、本作で笠原和夫は関わっていない。
その結果、本作では、笠原和夫のテーマ(①若者を犠牲にして利権を貪る大人たち、②戦中派と戦後派の対立、③現実のヤクザに仁義などない)が消失し、深作欣二のテーマが前面に出てきている。
深作欣二のテーマとは何か。それは、①戦争を通じて露わになった人間の暴力性と、②戦後の平和で人々が失ってしまったエネルギーだ。
本作の主人公石川力夫は、このテーマを体現したような男で、誰彼かまわず暴力を振るいまくる。その所業を列挙すれば以下のようになる。
・闇市でぼったくりをしているチンピラにいきなり発砲して金を奪い取る。
・警察から匿ってくれた女(ちえ子)を強姦して情婦にする。
・ちえ子に体を売らせてヘロイン代、保釈金を出させる。
・ちえ子を自殺に追い込む。
・敵対する組の組長の女を犯し(未遂)、組長を刺突する。
・金を貸してくれた組の車のガソリン口に火を投げ入れて爆破する。
・世話してくれた組長を刺殺しようとする。
・ちえ子の遺骨を食いながらこの組長に金と土地を要求する
・ヘロイン中毒になって売人を襲撃する。
・以上の所業を散々かばってくれた親友を殺害する。
一読して分かるように、この主人公のやっていることはメチャクチャで、同情や感情移入の余地が一切ない。しかし観客はこの男の行為に魅せられてしまう。そこには戦後世代(我々)が失ってしまったエネルギーがあるからだ。
なお余談だが、本作は主人公石川力夫の墓石に彫られた「仁義」の2文字を映すシーンで終わる。その意味について2つの対照的な解釈が挙げられていて面白かったので載っけておく。
彼の墓標に刻まれた「仁義」の二文字。それは幼児が幼児なりに懸命に理解した、「彼なりの仁義」の刻印なんでしょう。
主人公・力夫(渡哲也)が生前にこしらえた墓石に刻んだ『仁義』の二文字が意味するのは、仁義への忠誠ではなく、仁義を墓に葬り去るという、強固な意志だ。