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 トルストイ戦争と平和』第1部第3篇のつづき。

 いよいよアウステルリッツ会戦。ナポレオン率いるフランス軍とロシア軍の激突が描かれる。

 そこでは主要人物の、アンドレイ、ニコライ、ボリスがそれぞれ野望を語るが、ロシア軍は敗け、アンドレイは捕虜となり、ニコライはせっかくの出世のチャンスを逃す。

◆アンドレイ・ボルコンスキー
◇[Before] アンドレイは戦争で大活躍する妄想をするが・・・

《そうだ、あしただ、あしただぞ!》彼は思った。《あした、もしかすると、おれにとってすべてが終わってしまうかもしれない。こんな思い出はみんなもうなくなってしまう。こんな思いではもうおれに何の意味もなくなってしまうかもしれない。だが、あした、もしかすると──いや、きっと、あしただ、そういう予感がする。はじめておれは自分のできることをなにもかも、いよいよ、見せることになるのだ》。すると、戦闘が起こり、敗け、戦いが一つの地点にしぼられ、指揮官たちがみんなあわてふためく様子が思い浮かんだ。そしてその時、彼があれほど長いあいだ待っていた幸福な瞬間が、トゥーロン(ナポレオンがはじめて勲功を立てた場所)がついにやってくる。彼はクトゥーゾフにも、ワイローターにも、両皇帝にも、自分の意見を断固として、はっきり言う。みんなが彼の考えの正しさにびっくりするが、だれひとりその実行を引き受けようとしない。そこで、彼は一個連隊、いや一個旅団をもらい、今後だれも自分の命令に口をさし挟まないという条件を出す。そして、自分の旅団を引き連れて決戦の地点に向かい、たったひとりで勝利を収める。


◇[After] 大ケガをして何か悟りを開く。

《なんだ、これは?おれは倒れているのか?俺は足がふらついている》と彼は思った。そして、あお向けに倒れた。彼はフランス兵と砲兵との闘いがどんな結末になったかが見られるものと思い、赤毛の砲兵が殺されたか、殺されなかったか、大砲が奪われたか、救われたか、知りたいと思って、目を見開いた。しかし、何も見えなかった。彼の上には空以外何もなかった──澄んではいないが、それでもやはり、はかりしれないほど高くて、灰色の雲が静かに流れている、高い空以外。《なんて静かで、落ち着いていて、おごそかなんだろう。おれが走っていたのとはまるで違う》アンドレイは思った。《おれたちが走り、わめき、取っ組み合っていたのとはまるで違う。憎しみのこもった、おびえた顔で、フランス兵と砲兵が砲身清浄棒を奪い合っていたのとはまるで違う──まるで違って、この高い果てしない空を雲が流れている。どうしておれはいままでこの高い空が見えなかったのだろう?そして、おれはなんて幸せなんだろう、やっとこれに気づいて。そうだ!すべて空虚だ、すべていつわりだ、この果てしない空以外は。何も、何もないんだ、この空以外は。いや、それさえもない、何もないんだ、静寂、平安以外は。ありがたいことに!・・・・・・

 

その後フランス軍の捕虜となり、憧れのナポレオンとも対面するが、新たな考えに取り付かれた彼には、ナポレオンもちっぽけなものに見えてしまう。

彼は自分の上にはるかな、高い、永遠の空を見ていた。彼はそれがナポレオンだ──自分の英雄なのだ、とわかっていた。しかし、自分の心と、この、雲の走っている、高い、無限の空のあいだで今生じていることにくらべると、この時彼には、ナポレオンがあまりにもちっぽけな、取るに足りない人間に思えた

 

◆ニコライ・ロストフ
◇[Before] ニコライは皇帝の側近に取り上げてもらおうと魂胆するが・・・

《どうして、あり得ないんだ?大いにありうるじゃないか》ニコライは思った。《陛下がおれにお会いになって、どんな士官にでもなさるように、命令を与えて、おっしゃる。「行って、向こうの様子を確かめて来い」。ずいぶんいろいろな話があったじゃないか、ある士官にまったく偶然に陛下がなんとなく目を留められて、ご自分の側近になさった、などという。どうだろう、もし陛下がおれを側近にしてくださったら!ああ、せいいっぱい陛下の身を守り、せいいっぱいの真実をなにもかも申し上げ、陛下を欺いているやつらを、せいいっぱい暴き立ててやる!》そして、ニコライは皇帝に対する自分の愛情と忠誠を、ありありと心に思い描くために、敵やペテン師のドイツ人を思い浮かべ、胸のすく思いでそいつを殺すばかりでなく、皇帝の目の前でその頬をぶんなぐるのだった。

 

◇[After] 失敗する。

彼は皇帝のそばに寄ることができたはずなのだ・・・・・・できたばかりでなく、するべきだったのだ。そして、それが皇帝に自分の忠誠を示す唯一の機会だったのだ。それでいて、彼はそれを生かさなかった・・・・・・《なんていうことをおれはやってしまったんだ?》彼は思った。そして、馬をめぐらして、皇帝を見かけた場所に急いで引き返した。しかし、もう溝の向こうにはだれもいなかった。


◆ボリス
◇[Before] 戦争を通じて出世するぞ!と息巻くが・・・

《おやじが1万ルーブルずつ送ってくれるニコライは、だれにも頭を下げたくないとか、だれに下僕にもならんとか、理屈をこねてればいい。だが、自分の頭以外何も持っていないおれは、自分の出世の道をはかって、チャンスはのがさず、利用しなければならないんだ》。

ボリスは最高権力のそばにいるという考えに興奮していた。彼は今自分がその権力の内側にいるのを感じていた。彼は自分がここでは、あの大群の巨大な動きをすべて支配している原動力に触れているのを意識した。


◇[After] その後のボリスは描かれないが、ロシア軍が敗けてしまったので大した出世は望めなさそう。