庵野秀明シン・ゴジラ』を観た。

 あらすじは非常にシンプルだ。突如東京に襲来したゴジラに対し、日本政府は法規制・縦割り行政などに足を取られ、その対応に苦慮する。そんな最中、ゴジラの脅威を認識した米中露の圧力により、日本政府は核兵器によるゴジラ殲滅案を受け入れてしまう。核兵器を使用することは東京都が焦土と化すことを意味し、このままでは日本は滅亡せざるを得ない。そのため、何としても核兵器を使用する前にゴジラを凍結すべく、官僚・政治家・科学者が一丸となってゴジラ凍結作戦(ヤシオリ作戦)を推し進める、というもの。

 本作も庵野作品らしく、元ネタからテーマを考えると分かりやすい。以下、元ネタと目される作品・事件との比較から本作のテーマを考える。

 

1. 岡本喜八『日本のいちばん長い日』から考える
 『シン・ゴジラ』は『日本のいちばん長い日』から多大な影響を受けている。激しいカット割りは岡本喜八作品の特徴そのものであるし、日本が重大な危機に直面した際に、どう対応するのかということを題材としている点でも同一である。

 しかし、そこで描かれるテーマは異なる。『日本のいちばん長い日』はポツダム宣言受諾を目前に、原爆を2発落とされておきながら、なお利権争いを続ける官僚・政治家の醜悪さが描かれる。そこでは官僚・政治家が一丸となって事態に対処するという姿勢は見られず、最終的な解決は天皇が”ただ独りで”下した「御聖断」によってつけられる。

 他方、『シン・ゴジラ』では、責任逃れのために策謀を凝らす政治家・官僚が現れたりはするものの、官僚・政治家・科学者が”一丸となってゴジラの問題に対処する。そこには、どんな重大な危機でも、みんなが一丸となって理性を行使すれば必ず解決できる、というポジティブなメッセージがある。

 

2.  庵野秀明新世紀エヴァンゲリオン』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』から考える
 『シン・ゴジラ』のストーリー展開は『エヴァ/ヱヴァ』におけるラミエル戦とそっくりである。すなわち、『エヴァ/ヱヴァ』においては使徒ラミエルを倒すために全国の発電所および送電車が動員され、日本国が一丸となって協力する姿が描かれる。『シン・ゴジラ』においてはゴジラを倒すために全国のプラントおよび化学工場が動員される。

 しかし、両者はその後のストーリー展開が異なる。

 『エヴァ/ヱヴァ』においては、こうした戦いを通じて主人公シンジ君が生きる意味を見出す過程が描かれる。父に捨てられた経験から生きる意味を見失っていたシンジ君は、エヴァに乗って世界を救うことが自分の使命であると自覚していくのだ。

 しかし、シンジ君はその後、使徒レリエルとの戦いの過程で、自分が乗っているエヴァがとんでもない化け物であることに気付きはじめ、続くバルディエル戦で親友トウジに重傷を負わせる(漫画版では殺害)に至って、生きる意味を完全に見失う。

 そこで描かれるのは「みんなで協力して事態に対処したところでそれらは全く無意味である」というかなりニヒリスティックな結論である。

 他方、『シン・ゴジラ』においてはこうしたひねくれたストーリー展開はないため、「みんなが一丸となって協力すれば危機を乗り切れる」というポジティブな結論になっている。

 

3.  本多猪四郎ゴジラ』から考える
 『シン・ゴジラ』においては初代ゴジラをリスペクトすることが明言され、ゴジラのデザインやストーリーに初代ゴジラの影響があることがしばしばインタビューなどで語られている。

 『ゴジラ』のテーマの1つは、当時問題となっていた第五福竜丸事件を背景とする、反核兵器の思想である。ゴジラは水爆実験の影響で出現し、東京でゴジラがまき散らした放射線は罪のない児童にまで及んだという描写からこれがうかがえる。

 他方、『シン・ゴジラ』でも核及び原子力問題がテーマとされている。ゴジラは海中に投棄された核廃棄物を喰らったことで東京に出現し、原子力エネルギーによって動いている。

 しかし、『シン・ゴジラ』ではこの問題に対する姿勢はもう少し複雑なものとなっている。

 まず、①原子力で動くゴジラの破壊力はすさまじく、東京は一瞬で火の海にされてしまう。他方、②ゴジラがまき散らす放射線による被害は小さいとされ、③ゴジラのエネルギー源の研究を進めれば現行の原子力発電よりもより安全でクリーンなエネルギーを調達できることも示唆される。作中ではこのゴジラの2面性を評して「ゴジラは神の化身にして、人類に福音をもたらすもの」とも言われる。

 しかし他方で、④国連安保理による核兵器投下はきわめて否定的に描かれる。

 ここには、「核兵器の使用には断固として反対するが、原子力の活用については現実的に考えなくてはならない」というメッセージがうかがえる。


4. 結論
 以上の検討から、『シン・ゴジラ』のテーマは、「どんな重大な危機でも、みんなが一丸となって理性を行使すれば必ず解決できる」ということと、「核兵器の使用には断固として反対するが、原子力の活用については現実的に考えなくてはならない」という点にある。
 なんというか、大人な結論である。