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 『ブロークバック・マウンテン』を観た。泣く子も黙る超有名ゲイ映画だ。

 

1. ゲイ映画というとすぐ『トーチソング・トリロジー』や『プリシラ』のような、「差別と偏見に負けない」「愛は勝つ」的なテーマを思い浮かべてしまうのだが、この映画は違う。

 

2. この映画は、相手と両想いなのに、余計なことをいろいろ考えてしまってくっつけない男の話だ。以下列挙するように、本作の主人公は計6回も愛する人と一緒になるチャンスを逃す。

(1) 主人公イニスは、季節労働で訪れた山(ブロークバック・マウンテン)で、ジャックと出会う。そこで2人は恋に落ちるが、山を降りると、イニスは恋人アルマと結婚すると宣言してジャックと別れる。自分から別れを告げておきながら、イニスは独り号泣する。

(2) 宣言通りイニスはアルマと結婚するが、ある日ジャックから手紙が来る。再会を喜ぶ2人は再び山に出かける。ジャックはここで、2人で牧場を持って幸せに暮らそうと提案するが、イニスは家庭を捨てられないからジャックとは一緒になれない、と言って断る。

(3) しかしイニスはジャックの提案を断っておきながら、ジャックへの想いは捨てきれない。その結果、妻アルマとの関係が冷え込み、2人は離婚する。離婚を知って喜び勇んでやってきたジャックに対し、イニスは子供がいることを理由につれない態度を取る。

(4) イニスとジャックの関係はなおも続き、また2人で山に来る。ジャックが自分の住処であるテキサスに来いと誘うが、イニスはなぜかキレはじめる。

(5) 再び来た山で、イニスは今度は養育費の支払いのために仕事が忙しく、当分会えないと告げる。

 イニスがここまでジャックと一緒になることを拒むのは、周囲の偏見(とそれに伴う幼少時のトラウマ)のためであると気付いたジャックは、ゲイに対して偏見の少ないメキシコで一緒になろうと提案する。しかし、ジャックがメキシコで他の男とゲイセックスをしていたことを知り、イニスはまたもキレてしまう。

 何度も何度もチャンスがあったにもかかわらず、余計なことを考えて一緒になろうとしないイニスに対し、ジャックはついにキレる。

「2人でいい人生を送ることもできた。俺たちの牧場で。でもお前が嫌がった。俺たちにはブロークバック・マウンテンだけ!お前と俺にはあの山しかない。他には何ひとつない。20年近い年月で会えたのはわずかだ。それなのにメキシコ行きを責め、渇きを癒したことで俺を殺すのか。俺のつらい想いがなぜわからない。俺はお前と違う。年に数回の行為じゃ満足できない。」

 追い詰められたイニスは俺がこんな風になったのはジャックのせいだと責任転嫁をしはじめ、次のように言って泣き崩れてしまう。

「俺はクズだ。負け犬なんだ」

 それでもイニスを愛するジャックは、イニスを熱く抱擁してやる。

(6) 山を降りたのち、イニスはジャックに手紙を出すが、名宛人死亡として返ってくる。イニスは驚いてジャックの妻に電話をすると、ジャックは事故で死んだという。聞けば、ジャックは遺言で遺骨をブロークバック・マウンテンに埋めてほしいと言っていたらしい。イニスはすぐに遺骨を持つジャックの両親のもとに駆け付ける。

 しかし、ジャックの父は、息子とゲイ関係にあったイニスを拒絶する。結局父の反対で、ジャックの遺骨を手に入れることはかなわなかった。

 

3. ラスト、イニスの娘アルマJr.が、イニスのもとを訪ねて来る。娘の結婚ということで動揺するイニスだが、結婚相手のカートのことはあれこれ聞かず、ただ次のことだけを尋ねる。

「そのカートって奴は、お前を愛してるか?」

 愛があれば一緒になっていいのだ。これまで、イニスはジャックを愛していながら、ジャックと一緒になる機会を6度も逃してきた。愛よりも余計なものを優先してきたからだ。

 アルマJr.の口から、カートはアルマJr.を愛しているということが分かると、イニスは即座に結婚を了承する。娘に自分と同じ思いをさせたくないということだろう。

 

4. 別にゲイでなくても共感できるところの多い、いい映画だった。傑作。