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 札幌で異なる2人から、「映画や小説からテーマなんて読み取る必要はなく、観て(読んで)楽しめれば十分だ」という言説を聞いた。

 映画に対する接し方なんかは自由で、別に上のような考えもあっていいと思うが、このような態度を完全に拒否する小説(映画)がある。

 それはカフカの『城』である。

 あらすじを書くと、ある村に突然到着した主人公Kが、自分を呼び出した城の伯爵家に入城を拒否されまくり困惑する、というものである。

 このあらすじを読んで明らかなように、話がものすごくつまらない。

 しかも短編小説ならまだしも、文庫サイズで600頁もあり、ぜいぜい言いながら読み終えても、ラストは未完で終わる(問題が一切解決されないまま、酒場のおかみさんとの会話の途中でばっさり終わる)。

 ちなみに映画版もあり、原作を忠実に再現したために、ラストはこんな感じになっている。

 

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 間違ってこんな本を長い時間をかけて読んでしまった人間としては、何とかこの時間を無駄にしまいと色々とテーマを考えることになる。

 ただカフカの作品は大体そうなのだが、物語が極めて抽象的なために、読み手によっていくらでもテーマを考えることができ、特に素人が書いた感想文なんかを読んでいると、一人一説状態で、統一されることがない。

 幸い新潮文庫のあとがきで、訳者の前田敬作先生が卓抜な読みを示しているのだが、これがもうマルクスの影響を受けまくりの読み方で、非常に面白かったのでここにまとめておく。

1. 世界観
 まずKが到達する村は、普通に読んでいるとヨーロッパの片田舎を連想させられるのだが、前田先生によればこれは資本主義に支配された現代社会の象徴である。
 そこに住む人は、現代人の多くがそうであるように、資本家が金持ちになるための労働をするだけの存在で、仕事のやりがいや人間性を奪われた状態にある。
 * さらに、実存主義哲学を研究されている先生方は、本来の人間性とは何かを研究されているが、カフカはそんなものは現代社会においては無いのだと喝破している(らしい)。

2. 主人公K
 このような住民の中で、唯一人間性を保っているのが主人公Kである。Kは城にたどり着くための条件(個性を捨てて非人間的な仕事に従事すること)を呑むことを拒否しつづけ、結果として城にたどり着くこと(=社会に帰属すること)ができない。
 * そもそも村の外から来たKからすれば、上記条件をなぜ呑まなければならないのかが皆目意味不明である。
 社会に帰属できないということは、孤独で貧困となることを意味し、Kはこのままでは幸せになることができない。

3. Kはどうすればいいのか
 そこでKがなすべきことを考えると、結局Kは上記条件を意味不明なものとして吞み込み、社会に帰属するほかはない。つまりKは自分が合理的でないと判断しているルールに従うほかないわけだが、これはファシズムをはじめとする危険思想に屈服する危険を含む考え方である。
 カフカが本作を未完としたのは、こうした解決策しかないことを明らかにするのを怖れたためだと前田先生は指摘される。

 ①主人公にとって理解不能なルールに従い、②個性を捨てなければ、③社会に帰属できない、という点だけを見ると、まるで司法試験のようだな、と思ってげんなりした次第。