バルザック『骨董室』を読んだ。

 主人公で家柄が最高クラスでイケメンのヴィクチュルニアンくんは、パリに出て放蕩生活がやめられなり金が尽き、実家にたかるもそれでも首が回らなくなる。そこで、手形を偽造することで30万フランを獲得し、恋人で美女のモーフリニューズと共に夜逃げする、という計画を建てる。
 しかし、手形偽造をして30万フランを得て、さあ夜逃げだという段になると、突然、恋人モーフリニューズが裏切り、あなたとは行かないと言い出す。
 進退窮まった主人公ヴィクチュルニアンは、泣く泣く実家に帰るが、偽造手形の名宛人デュ・クロワジエがヴィクチュルニアンと対立していたため、事態は法廷闘争に発展する。
 ヴィクチュルニアンに忠実な執事シェネルは、ヴィクチュルニアンを無罪にするために奔走するが、仇敵デュ・クロワジエの方も権謀術数を巡らし、裁判所も両陣営に分かれてしまう。
 ラストは両陣営の策謀が激突し、クライマックスを迎える。

 登場人物のほとんどの行動原理が金、金、金であるのはバルザックらしい。本作ではこの傾向が特に顕著で、登場人物全員が金に追い立てられまくられ、気付けばラストの激突シーンまで一気に転がっていってしまう。

 主人公がパリに耽溺し、金に困っていく姿は『ゴリオ爺さん』のラスティニャックくんとそっくりだ(ちなみに本作にもラスティニャックは登場し、主人公と友達になる)。ただ、知性を行使してうまいこと立ち回るラスティニャックと比べ、本作の主人公はいかにも凡庸で、借金の問題が自分の家柄の高さと評判で何となく解決されるのをただただ祈るみたいな性格をしている。

 バルザックはこうした主人公を徹底的に破滅へ追い込み、知性を行使しないバカは死ね!と叱責している様子。傑作。